映画「タクシードライバー」の映像表現の研究 2

オープニング 00:00:00 - 00:02:10


 映画の冒頭から観客に対して不安感を煽る演出を行うことで、作品世界に没入させる演出がなされています。

 まず、蒸気の中からタクシーが登場します。通常のスピードではなく、違和感を出す為にスローになっています。タクシーは画面を覆いつくすようにカメラに接近し通り過ぎます。観客に圧迫感を与える効果があります。タクシーが←方向へ走りぬけることで観客に居心地の悪さを与えています。

 蒸気は、主人公の世間に対しての鬱屈したモヤモヤした気持ちを表しているのではないでしょうか。白いもや(霧)から乗り物が現れる演出は、他のスコセッシ作品でも用いられています。

 一連のクレジットが終了するとトラヴィスが登場します。ただし目のクローズアップショットです。クローズアップは観客に感情移入させる為に使用されます。目の演技では、何の意思もない虚無感が表されています。目と背景のショットをモンタージュ技法でつなぐことで、トラヴィスが観ている世界だと思わせる効果があります。
 街並のショットでは、画面が上下に揺れながら電灯の光が軌跡を描き、スローなテンポで進んでいます。トラヴィスの虚無感や気だるさが表現されています。

 次のカットでは、人々は左から右へ歩いています。それ追随するように、トラヴィスの視線は左から右へ移動されています。本当なら、左から右へ動くモノを目で追う動作を撮影すると、画面上では右から左に眼球が動きます。あえて人々の動きと目線の移動を同じ方向にすることで、観客に混乱させずにトラヴィスの視線であることを意識させています。人々の様子と一人タクシーを運転しているトラビスの対比することで、孤独感を強調しています。

 トラビスの顔が赤いのは、信号が赤で止まっているからか、前を走っているテイルランプに照らされているからだと考えられます。ただ、スコセッシ監督は昔観たお気に入りの映画の演出を取り入れます。目のクローズアップで画面が赤いのは、ヒッチコックの「めまい」のオープニングからのオマージュです。